インド首都デリー、スラム一掃に最低5000億ルピー…州予算の1.5倍


 

こんなニュースが飛び込んできました。

デリーのスラムを一掃するためには、5000億ルピーという州予算の1.5倍におよぶ予算が必要であるとの試算が発表された。

同州の昨会計年度の支出は3500億ルピーであった。

デリー都市シェルター改善局は既にこれに関する詳細な報告を都市開発機構に対し提出している。

同市内では675ヶ所のスラム地区に30万世帯以上が拡がっており、以前にも同様の計画が提出されたことがあったが実現していない。

2008年にこれらの世帯を移住させるための住宅建設が始まり、2年前には1万4千世帯分以上が使用可能になったにも関わらず、バワナにある居住区に8ヶ所から266世帯が移住したにすぎない。

現在も4万5千棟の住宅が建設中であるとタイムズオブインディアは伝えている。

レスポンスより http://response.jp/article/2015/04/14/248963.html

 

デリーのスラム移転計画に、1兆円

5000億ルピー、現在の円に換算すると約1兆円。他にも社会インフラ、医療、教育など課題が多いインドで、実現可能な計画なのかどうかは分かりません。既に2008年より移転建設が始まるも遅々として進まないこのプロジェクト、果たして何十年かかるかも検討がつかない。もしかすると何十年かかっても、何も変わっていないかも知れないという危機感を覚えます。

以前お伝えしたインドネシアの国家スラム撲滅プログラムの記事では、インドネシア政府が予算384兆ルピア(日本円換算約3.5兆円)をかけて、3286ヶ所のスラムを2019年までにゼロにするという意欲的な計画を紹介しました。こちらは、予算の80%を地方や企業に求め、期限を5年に設定しています。ゴールの設定がされており、より現実的に進んでいくかも知れない。

 

デリー市内に675ヶ所30万世帯のスラム

今まで、デリーにある大型スラムは約50ヶ所と聞いていましたが、小さな数十世帯のコロニーも含めると実に675ヶ所もあるのですね。レインボーチルドレンが支援するグジャラティスクールのあるスラム(シャディプール、約5000世帯20000人)は、デリーでも最大規模です。同じく世帯4人平均で計算すると、デリー市内には約120万人がスラムに暮らしている計算になります。果たしてそれだけの移住用の住宅を準備することは可能なのでしょうか。また、計画が延びるほどスラム人口は膨らんでいく傾向にあり、都市への人口流入が生み出す都市型スラムの問題はとても深刻です。

 

シャディプールのスラムの移転計画

シャディプール在住のデリー支部長サージャン、そしてグジャラティスクールのネルー先生からの情報では、(シャディプール)スラムの土地は企業への売却が完了しており、移転用の住居も建設されているらしいとの情報です。「らしい」とは、行政からスラム住人にそういった説明もされておらず、移転計画のどの段階にあるのかをまったく知らされていないことを理由としています。一度グジャラティスクールの増築案を持ちかけた時も、このよく分からない移転計画が行く手を阻みました。

移住用の住宅が完成した場合、すぐに移転は始まるのでしょうか?

 

1万4千世帯分以上が使用可能、でも、、

文中には2年前に1万4千世帯分以上の移住用住宅が準備できたのにも関わらず、わずか266世帯しか入居していない事実が伝えられています。理由は何でしょうか?

デリーのスラムでは、地方から仕事を求めてやってきて、高い賃料の一般的な住居に住むことが不可能なのでスラムに住み込むという図式があります。インドの経済成長とインフレは、異常な地価上昇や賃料の上昇を招き、とても出稼ぎの収入では入居できない水準にあります。

そこで、政府から移住用の住宅が提供されるというと一見ありがたい話に聞こえますが、問題はそんなに単純ではありません。場所です。当然地価の高い中心部に住宅が準備されることは少なく、郊外となるでしょう。そうなると現在の仕事と切り離されることになるのです。それが移住を阻む原因のひとつだと考えます。

スラムの人々は元々仕事を求めて地方から移住してきて、現在は何らかの仕事についています。シャディプールのスラムの例では、ラジャスタン地方出身だとダンスや太鼓が得意なのでそれらの職業を、ビーハー出身だとリキシャ運転手や髭剃り、ハイデラバード出身だと物乞いや路上商売、マハラシスター出身だと主に家政婦、ラックナウ出身だとごみ拾い、というように職業カーストに応じた仕事に就いています。

 

グジャラティスクールはどうなる?

また、子どもたちの学校の問題もあります。スラムコロニーが取り壊されると、現在のグジャラティスクールも無くなります。もともと認可学校ではないので、移転先に新たな学校が準備される訳ではありません。

スラム移転は、住環境がコンクリートの小さな部屋に詰め込まれるだけでは、何も変わりません。衛生は改善されるでしょう。でも教育の環境は変わらず、そのスラムを生み出した格差問題については変わらないままです。

都市の見た目だけを変えたいという行政側の思惑であれば、問題が見えない化されることでいっそう深刻な問題になりかねません。

グローバル規模で進む人口の増大と、格差が生み出す都市への人口流入、そして都市型スラムの形成は資本主義と貨幣経済が途上国に生んだ構造だと感じます。それは先進国の責任でもあり、我々日本人にもその責任があるのではないでしょうか。

引き続き、できることに取り組んでいきたいと考えます。