奨学生file.24 Tsering Tharchin


 

Tsering Tharchin 

第8回スタツア秋 454縮小

 

Tharchinは、Jawaharlal Nehru University(JNU)で中国語を学ぶ大学生です。

以前は、デリー大学で英語を学びその後、マスターコースで行政学を学びました。卒業後にJNUに移り、勉強を続けているそうです。彼にとって、中国語を学ぶことは、チベット人として中国のことをより深く理解することにつながるのだそうです。「中国のことを嫌うだけではなく、彼らから学び、平和的に付き合っていくことができるようになることは重要。これからのチベットには、そういった人材が必要なんだよ」と勉強するその理由を教えてくれました。

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 休みの日は、ずっと勉強しているそうです。デリー大学の学生時代はたくさん時間があり、外に出かけることもできたらしいですが、今は時間さえあれば勉強しているのだそうです。中国語自体簡単ではないし、JNUの言語学部はかなり厳しく、予習復習が必要とのことでした。勉強のために朝の5時まで図書館にいたこともあったそうです。

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キャンパス

 忙しい勉強の傍、彼は課外活動としてラジオDJをしています。ニュースを翻訳してチベット語で放送しているのだそうです。彼の友達も、「Tharchinは話す才能がある。ラジオDJは誰でもできることではないよ」と彼の仕事ぶりを褒めていました。

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キャンパス

 デリー大学の学生の頃は、Tibetan Youth Congress(若者を中心としてチベット問題に取り組む団体)に参加していました。Students for Free Tibet(Tibet Youth Congressとはまた異なりますが、チベット問題に関して行動を起こしている団体)に所属する友達も多いそうです。現在は、活動拠点から離れてしまったため、活動自体には参加していないそうです。ですが、いまでも時間が許す限りは、Students for Free Tibetなどのイベントに参加しているそうです。ときには、そのためにダラムサラにまで足を運ぶこともあるんだとか。チベット問題に関して、彼のもつ知識は計り知れません。私自身も、日々チベットのことを彼から教えてもらっています。

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キャンパス

 そんな彼の将来の夢は、政治的な活動家。祖国チベットのために、政治的な面から動いていくのだそうです。そのために中国語を学ぶことは、彼にとって重要なことなのです。JNUを卒業後は、台湾の大学に留学したいと話すTharchin。奨学金が取得できれば、必ずいくそうです。「台湾は、チベットと似た境遇に置かれているし、そこから学べることもたくさんある。将来政治的な活動を行っていくにあたって、中国、台湾、チベットの国際関係に強くなることは重要なこと」だと話していました。

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キャンパスにて

彼の家族はチベットに住んでいます。チベットののどかな地方で、ヤクややぎを飼い、チーズなどを作って生活しているのだそうです。彼は4人兄弟の末っ子で、3人の兄はみなチベットで家族とともに生活をしているとのことでした。

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 Tharchinがチベットから山を越えてインドへ来たのは2002年。彼がまだ13歳の時でした。ある時、ふいに英語を学びたいと思い、それを両親に伝えると、インドでなら学べるという情報が手に入ったといいます。そして、一人チベットを出ることを決意しました。全ては自分の意思だったのだそうです。それから12年間、家族には一度も会っていません。ですが、電話回線がカットされていないときには、家族や村の写真を送ってもらったり、電話をしたりしているそうです。ですが、一度中国政府によってネットワーク回線が切断されてしまうと、2~3ヶ月は家族と連絡が取れなくなってしまうんだそうです。彼が生まれ育った場所の写真を見せてもらいましたが、緑豊かで本当に美しい場所でした。

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Hometown

インドへ渡ったあとは、ダラムサラから少し離れたとこにあるTCVに通っていました。高校生の頃は、男子生徒をまとめるキャプテンをしていたそうです。

 

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ライブラリーにて

 現在は、JNUの寮に住んでいます。同じチベット人のルームメイトとは、まるで夫婦漫才かのような絶妙な掛け合いを披露してくれます。いつもお互い文句ばかり言っていますが、とても仲良しな二人のやりとりに笑いっぱなしでした。寮では、三食出されるようですが、チベットで育ったチベット人には、なかなかインドの料理は口に合わないそうです。なので、彼はいつも自分の部屋でチベット料理を自炊しています。決して広いとは言えない部屋ですが、調理時にはさっとIHのコンロを出してきて、キッチンが出来上がります。今度、チベット料理の一つであるThenthukをご馳走してくれるそうです!

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How he cook

彼の夢が活動家であるように、彼自身今もすでに活動家。中国の首相やお偉いさんがインドにきたときは、かならず中国大使館に出向いてデモをしているそうです。そのおかげで捕まったこともしばしば。一週間拘置されたこともありました。けれど「そんなこともいい経験。デリーの警察とはもう友達さ」と笑い飛ばすTharchin。何度捕まっても怯むことはありません。けれど、本当につつましく、謙虚に深く物事を見ていることを話しの節々から感じました。チベットと中国の外交関係だけではなく、日本の政治状況もしっかりチェックしている勉強家です。日本のShinzo Abeについても意見を求められました。

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ポスター

 学生のうちから積極的に活動しているTharchin。政治的な活動には様々な責任が伴います。そんな活動をしているとき、今でも忘れられない出来事があったそうです。インドに中国からの官僚がきたとき、デリーでチベット人青年による焼身自殺がありました。彼はその青年が火だるまになって走るその場にいたのだそうです。「いまでも彼の姿が脳裏に焼き付いて離れない」。見せてもらった写真と彼の静かな表情が心に残りました。

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チベット人の友達たちと

 Tharchinは本当にユーモアに溢れ、ずっと話しているか歌っているかダンスをしている、そんな青年です。真面目に語ったと思えば、その3秒後には冗談もしっかり飛ばしてきます。おちゃらけキャラにも見えますが、実際に自らの足で山を越えてきた彼は、達観した意思があるように感じました。チベット問題に取り組む人の中には、燃えるような想いを持っている人もいますが、彼は客観的で落ちついた判断をして、着実にその一歩を歩み進めている印象を抱きます。でも、ありあまるエネルギーとともに行動に移さずにはいられない彼は、将来なにかきっと、大きな動きをつくっていくんだろうなぁと予感させるものがあります。