インドはITエンジニア大国。でも大学進学率はワースト?!


 

シリコンバレーのITエンジニアはほとんどがインド人。誰もが一度は聞いたことのある話だ。

2ケタの掛け算を暗唱すると話題の「インド式算数」が理由じゃないかと、納得している人も多いはずだ。

数字に強く、英語が堪能な最先端エンジニア集団の国家。

でも、スラムの子どもたちの支援をしていると、どうもイメージが結びつかない。

その理由を探ってみた。

 

コンピューター科学系は断トツの世界トップ

もう一度冒頭の表を全体像で見てみよう。2012年の米国大学院(コンピューター科学系)への留学生数は、12,280名とインドが抜きんでている。2位の中国の7,550名の倍近い数字だ。18位に位置する日本の60名の、なんと200倍以上が留学している。圧倒的な差だ。総数が27,000名なのでおよそ2人に1人はインド人ということになる。おそるべし。

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2012年 資料:GLOBAL NOTE 出典:NSF

自然科学系合計の学位取得者数をみても明らかだ。2010年度は335,576名が学位を取得している。3位の本国アメリカをはるかに超え、4位のロシア以下は比較にならないほどだ。

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2010年 資料:GLOBAL NOTE 出典:NSF

2008年のインド政府人材開発省の発表によると、アメリカにおいては航空宇宙局(NASA)の科学者の中の36%がインド人だ。また、博士号保持者の38%はインド人で占められ、米マイクロソフト社の職員のうち34%がインド人だそうだ。(ちなみに僕の会社の社長もインド人です)

2011年 資料:GLOBAL NOTE 出典:NSF

さらには、医療・健康科学系分野の博士号でも421名と断トツのトップである。米国では外科医の10%がインド人であり、英国では医師の40%以上がインド出身だとされる。これらのデータから見ると、インド人は世界の頭脳だと言っても過言ではなく、特に理系分野では極めて優秀であることがわかる。

その意味においては、チベットやスラムの奨学生が優秀であれば、この分野で能力を伸ばせる環境があるということであり、未来に期待がもてるデータである。おそらく何人かはこの分野へ進むことになるだろう。

 

大学進学率は世界ワースト

しかしながら、現在世界第2位の「12億5000万人」の人口を抱える人口大国である。世界におけるマンパワーは圧倒的であるが、同じように国内の教育事情をボリュームだけで判断すると、実態を見誤ることにつながりかねない。

G20進学率
2012年G20大学進学率 資料:GLOBAL NOTE 出典:UNESCO

こちらは、G20の大学進学率(短期大学含む)のグラフだ。20カ国中、インド(紫色)は一番下を推移している。世界で97番にあたる24.7%である。政治・経済的には世界20カ国の仲間入りをしているが、教育分野(高等教育)は世界97番でワーストに入るというのがインドの現実だ。(統計152カ国)

主要アジア進学率
2012年主要アジア大学進学率 資料:GLOBAL NOTE 出典:UNESCO

同じアジアで比較してみても、一番下の青色がインドであり、ASEAN諸国に遅れをとっていることが分かる。(グラフが重複し見づらいため、ほぼ同率のカンボジア・バングラデシュ・ミャンマー・ラオスを除外)ただ、 近年上昇してきており10%台だった10年前の数値からはかなり改善したものの、24.7%という大学進学率は決して高くない。4人に1人という狭き門なのだ。ちなみに日本は19位の64.5%である。

 

見えてくる格差社会

断トツの世界トップであるコンピューター科学部門と、世界ワーストの大学進学率が意味するものは何であろうか?それは根強く社会に残るカーストという社会格差と、近年の経済発展による経済格差が相まって生まれている「新たな格差」であろう。生まれた家系と家系によって保証される職業、そこから派生する経済力によって「教育の選択」が決まる構図だ。その構図が世襲され、教育を受けていない親から子へ連鎖が続いていく。そしてそれは経済発展とともに加速しているのだ。恵まれた家庭から私立高校を経てアメリカへ留学する学生は、ほんの一握りでしかないのだ。

また、国自体の高等教育政策が遅れたため、インド工科大学(IIT)等の世界的な名門大学以外で受けられる国内の教育の質が低く、その道をアメリカ留学に求める構図もあるといえる。新しく始まったモディ政権は教育に力を入れる姿勢を見せており、今後の教育改革に期待が高まる。

 

ITはインディアンドリーム

しかし、民主主義のインドでは実力があれば認められる。インディアンドリームも数多く存在するのだ。IT産業はカーストが制定された時に存在しなかった職業なので、職業カーストの影響を受けない。これもインドでITエンジニアが人気を集めた理由のひとつであろう。現在、海外で得た知識や経験とネットワークを駆使し、ウミガメ族として帰国後に起業する若者が急増している。世界のIT技術者に起業したい場所を尋ねたところ、バンガロール、プネー、ハイデラバード、チェンナイと4位までをインドが占め、5位にシリコンバレーという結果だった。

 

レインボーチルドレンが目指す高等教育支援

インドという多重構造社会の中で、政策効果を期待しても格差は広がるばかりだ。多民族、多宗教、多言語、多階層、、行き届くには時間がかかり過ぎる。チベット難民やスラム街の住人という社会的マイノリティにとって、教育機会の損失は人生を左右し、教育機会を得る効果はとてつもなく大きい。

ハングリーであるだけでなく、勤勉でありかつ利他の心をもつ子どもたちは、私から見ても非常に魅力的だ。競争社会で生き抜くだけでなく、「周りによい影響を及ぼせる魅力的な人材」を一人でも多く世界に羽ばたかせたいと強く願う。

自分でコントロールできない慣習や環境という既成の殻を破り、将来の選択肢は彼ら彼女ら自身がもっているのだ。

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次回は、統計数値のないチベット難民の高等教育と、インドにおける女性の進学率について考えたい。