やっぱり人と人とのエピソードが、一番魂が震え、刻まれる経験なんだな


 

東京支部長 三村優子

【スラム編】

シャディプールの駅を降りて、砂埃の立つ道を一列で歩く。
見覚えのあるDhol(ドール)太鼓のお店の看板が見えると、スラムへの入口はもうすぐそこだ。

スラムに入るとすぐに子供たちが集まってくる。スラムの人たちは基本的に他所から来た人間には心を開いたり、笑顔で挨拶したりしないと、ある別の文献で読んだ。
だが、少なくともこのスラムでわたしが出逢った人たちは、子供から大人まで、今回もやっぱり『ヘーロー』『ナマステ〜』とみずから笑顔で声をかけてくれるひとが多い。

学校の入口が見えると、もう既に頬はゆるんで抑えきれない。
可愛い元気な子供たち。
また会えて、ほんとに、ほんとに嬉しい!

洗っても洗ってもなかなかとれなかったHoliの洗礼による色やにおいも、ようやくほぼとれた、、と思っていたのだけれど、
まだHoliの熱が冷めやらぬ子供たちは、レイくんのカラフルモヒカンを見て思い出したかのように『ハッピーホーリー!!』と口々に言いながら、各々で色粉を家に取りに走った。
呪詛のようにも聞こえていた『ハッピーホーリー!』ということばに、ゴクリと生唾を飲んで覚悟したのだが、
わたしの覚悟とは裏腹に、
その小さな手は、優しくわたしの頬や額に触れた。そして、『ハッピーホーリー、ディーディー!』と力強く胸に飛び込んでハグしてくれた。
マトゥラーでのHoliのあとだっただけに、なんだか涙が出るほどジーンとこみあげてくるものがあり。
口に入りそうになった粉をタオルで拭こうとしていると、面倒見のいぃ感じの女の子がそっとわたしの手を止めた。
『ディーディー、わたしに任せて!』
教室の隅に積み重なった箱をかき分け、誰のものともわからないパーカーを引っ張り出してきて、その袖でわたしの口元を拭いてくれる。
拭いているときの手つきと眼差しは、まるでお母さんが子供にするかのよう。
このスラムでは赤ん坊の面倒も、慣れた手つきでお兄ちゃんお姉ちゃんが当たり前のように見ている。
コスモス=秩序が、コミュニティには自然と生まれているのだ。
それはルールや慣習という後付けされていくものではなく、人が誰でも持っている母性や思いやりによって生まれているものなんだということを、小さな子供たちの姿から教えられる。

Holiを通して、インドの持つカオスとコスモス、その陰陽を体験し、このスラムスクールでやっとHoli体験が完結したように感じた。
すべてはきっとお膳立て通りに。
貴重な体験ができたこと、心から感謝だ。

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今回のスラムスクール訪問には、レインボーチルドレンとしては大きく2つの目的あった。
ひとつは、お絵描きの道具と化していたPCにネットを繋げること。
もうひとつは、キッズカメラプロジェクト。

どちらも、この閉鎖的なスラムという環境から、子供たち自身が外の世界へとアウトプットしていける第一歩となるチャンス。

お絵描きをPCで楽しむだけでも、わたしは充分にそこに意味はあると思う。
だけどたとえば、その絵をたくさんの他の誰かに見てもらえたとしたら、そこに秘められた可能性はまだ誰にもわからない。

普段見ている景色、
感じたこと、
心に秘めた想い、
『僕は、わたしは、これが好きなんだよ』『おもしろいと思ったよ』
『可愛いと思ったよ』
『綺麗だと思ったよ』
シャッターを切る瞬間、きっと子供たちがそこに無意識に込めた想いがある。
写真はそんな子供たちの想いをきっとわかりやすく視覚化してくれるはずだ。
そして、それは彼らの目から見た、彼らの風景だから、装飾されることのないリアルな一コマだと思う。
その想いを発信したとき、どこで、どんな共振が起きるのか、まだ誰にもわからない。

可能性は、きっと無限。

日本全国から集まった、デジタルカメラ。
皆さんの温かいこころをしっかり受け取ったことがわかるくらい、
わたしたちの説明を聞いている第一陣のキッズカメラマン達は、カメラを大切に握りしめ、目をキラキラさせて力強く頷いていた。

半年後、どんな彼らの想いがカメラに詰まっているか、こころから楽しみでならない。
わたしたちはその想いを、ひとつの虹の架け橋として、子供たちだけでは難しい部分を精一杯サポートしたい。

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先発メンバーに入らなかった他の子供たちにも、今回は不思議な変化が見受けられた。
キッズカメラプロジェクトのこと、確か知らないはずなのに、どういうわけか、
半年前は『撮って!撮って!』だった子供たちが、『撮らせて!撮らせて!』になっていたのだ。
わたしも、教室の壁側に促され、モデルばりのポーズをいくつも指示されて撮ってもらった。
撮られるのが好きな女の子はお洒落をしてきて、自慢の衣装を広げ、ポーズをキメる。
その子を囲みみんなで撮影タイム。

腕にタトゥーを入れ、髪も一部だけ染めた男の子が後半ずっと側にいた。
わたしのスマホを使って、たくさん写真を撮っていた。
斜めアングルや、わたしと手を繋いだ写真やほっぺにキスしながらのセルフィーなど、、なかなかおませな彼だった、笑。

その彼が、帰り際わたしの所に来て、なにやら神妙な顔で、ストラップで首から下げたわたしのスマホを指差して何かを伝えようとしている。
『ん?写真撮りたいの?』
そうじゃない、と首を振った彼は、わたしのスマホをかばんの中に入れようとした。
『盗られるから、しまって。』
彼は英語があまり話せないのでジェスチャーで一生懸命注意を促してくれていたのだ。
日本で子供から『盗られるからしまって。』と言われるようなことはまずない。
このちょっとしたやり取りのなかにも、彼らが普段見ている世界、知っている世界を教えられ、ハッとさせられた。
ありがとう。

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地球という、大きな世界。
国境で分けられた、世界。
コミュニティに分けられた、世界。
ひとり、ひとり、という、世界。

どの世界を知ることも、すべてはじぶんを知ることに繋がっているんだ。
じぶんを知ることは、世界を知ることに繋がっているんだ。
知ることに、わたしは優先順位などないと思っている。
一番最適な方法で、最適なタイミングで、
最適な順番で、知る機会は訪れている。
プロセスは誰一人同じではない。
だからわたしは、じぶんの出逢う『世界』に、
今は自信を持ってこれでいいと選択することができる。

そして、このスタディーツアーに2回参加して分かったことは、
わたしはやっぱり人と人とのエピソードが、一番魂が震え、刻まれる経験なんだなということ。
これからも、たくさんの人に出逢い続けたい!

最後に、
ツアーしょっぱなから波乱万丈だった旅を一緒に明るく乗り越えてくれたツアーメンバーのみんな、
デリーではわたしたちと行動を共にし、家に招いておもてなししてくれたサージャンとそのファミリー、
このツアーで再会を果たせたみなさん、
デリー&ダラムサラでできた友のみんな、
こころ固くならず共に過ごしてくれる
代表の石川さん、副代表の北條さんに
心から、心からの敬意と感謝をこめて。
本当にありがとうございます。