第1期計画スタートとその変更について
2014年5月にクラウドファンディングサイト「READYFOR?」にて150万のスポンサー募集を呼びかけ、結果205万を集め資金計画は成功しました。
しかし、2014年10月に学校建設のためのメーラト訪問直前に、インドより緊急SOSの連絡が入りました。さらに現地調査を進めていくとメーラトに学校は必要ないことが次第に明らかとなり、計画を変更し既存の学校の支援をすることを決定しました。
以下、変更までの経緯詳細と新たな計画について。
変更までの経緯
緊急SOS
9月にデリーのスラム学校(グジャラティスクール)のネルー校長先生から緊急連絡が入りました。これまで13年にわたり支援を受けてきたベルギーの団体から突然に支援先変更の通知があり、緊急事態に陥っているとのことでした。経営資金が途絶え、既に先生たちへの給与支払いがストップし、10月よりは子どもたちへの給食もストップしてしまうとのこと。グジャラティスクールはこれまで何度も通って絆を深めてきた子どもたちがいるスラムの学校で、ネルー校長先生は今回学校建設計画にあたりメーラトでの建設を推薦した本人であり、現地NGOメンバーとして学校建設計画の中心となっていた人物です。
事前調査
日本からの現地への事実確認・実態把握のやり取りと並行して、スラム写真家の吉田氏が現地に到着し現状把握に努めました。今回の学校建設着手を目前にしてメーラトとデリーのスラムに関しての総合的な調査をスラム写真家の吉田氏に依頼していたため、我々団体が到着する3週間前より現地に入り約1カ月間の調査を予定していたのです。吉田氏は実際にアジア各地のスラムで現地の家に滞在し寝食を共にしてきたスラムの専門家です。スラムの住人の目線で捉えた吉田氏の現地レポートの結果は、ネルー校長からのSOS内容と同じでした。このままでは廃校に追い込まれる可能性が濃厚だということ、彼が過去見てきた、支援が途切れた後に廃墟となっているアジア各地の学校と同じ道をたどる可能性があるということでした。
問題意識
今回スラムへの学校建設プロジェクトをすすめていくにあたり、日本の慈善団体やNPO・NGOがアジア各地に数千と建設してきた学校の中で、決して少なくない数の学校が今では単なる集会所となり、物置となり、廃墟となっている事実について当初から問題意識をもっていました。今回メーラトで予定している学校建設に関しては決してそうはなってならないとの思いから、現地が本当に学校建設を望んでいるのか(子ども、大人、地域として)、本当に学校建設が必要なのかを確認するために吉田氏に調査を依頼していました。
視察出発前計画
建設決定の前に現地視察の際に確認したかったのは以下の2点です。1点は、スポンサーの皆さまよりお預かりした学校建設のための資金が、メーラトが本当に必要としている支援となるのかどうか。もう1点は、これまで絆を深めてきたグジャラティスクールが目の前で同じような事態に陥ろうとする時に、別の地で新たな学校建設計画を進めることが正しいのかどうか。このことを現地で確認するために、デリー・メーラト両方のスラムで現地を見て、当事者の話を聞いて、また吉田氏よりの調査結果と併せて現地で判断することにしました。またグジャラティスクールの緊急支援として、ツアー参加者15名より給食代の募金を募り、現地へ届ける準備も並行しました。
現地視察と変更の決定
スラムスペシャルと題して開催された今回のスタディツアー。ファンディング成立後初めての現地視察となった今回のツアーは、一般参加者も含めて10/3から10/14まで12日間を様々なスラムを訪問してきました。メーラト、デリーのスラムは勿論、ムンバイの世界最大級のスラム、首都デリーでも異なるスラムを訪問し、なるべく多くの比較対象をもつことでスラム支援の判断材料を整えることが目的でした。またグジャラティスクールの子どもたちが通う公立学校、私立学校も訪問し、校長先生や教師から話を伺い、授業見学も実施してきました。これはスラムの教育支援をする上で、インドの教育事情を把握し、スラムの子どもたちが通っているスラム外の学校を直に見ることは貴重な機会となりました。
それらの判断材料も合わせ、メーラト・デリーの両スラムを視察した結果、メーラトでの学校建設は今回は着手すべきでないと判断、それよりも団体のビジョンを達成するためにはメーラトでの新しい学校建設の計画を変更し、デリーのグジャラティスクールに対する支援へとプロジェクトを変更することを優先すべきだという結論に至りました。
変更の理由について
事前調査より判明したこと
吉田氏の事前調査で判明したことは、メーラトにはほぼ使われていない学校が二つあり、必要なのは学校という建物ではなく教育に対する親たちの意識改革や啓蒙教育であることが分かりました。教会が建てた学校と現地団体が建てた学校が存在しますが、約300人いる子どもの中で片方の学校に通うのはたったの20人程度であり、1週間メーラトに滞在した吉田氏も、学校はあるにもかかわらず開いているのを見たことがないというのが現状でした。また、ゴミ山に隣接して形成されたスラムのため衛生環境が極端に悪く、水を含めた衛生対策や親を含めたモラル教育が優先項目であるということでした。結果、レインボーチルドレンのプロジェクトとしてメーラトでの新たな施設としての学校建設は不要との調査結果でした。
メーラト現地視察での判断
学校を見学したところ、机やイスはないが広さは十分確保されており、子どもが来てくれれば教育できる環境は十分にあると判断しました。問題は子どもを通わせるように親たちを説得することです。ただ、ゴミ山で日銭を稼ぐことがこのスラムの形成理由でもあり、説得にはかなり時間がかかると予想されました。また、ゴミ山スラムゆえの衛生問題が大きく横たわっており、水や食べ物からの健康被害やトイレ・下水といった問題に対する支援のほうが優先項目であることが分かりました。これに関しては、既存の支援団体やちょうど設立目前であることが確認できた現地NGOが取り組んでいく方が望ましく、よって現時点でのメーラトでの新たな学校建設は必要ないと判断しました。必要のない学校施設を作っても使われない可能性が濃厚だということが現地で確認できたのです。
あと、ネルー校長がなぜこのメーラトを学校建設地として推薦したのかについては、学校建設と水道・電気などのインフラをセットにして地方政府に陳情したことが窺われ、長年デリーにおいてスラム支援をしてきたネルー校長の、デリーより酷い状況であるメーラトに対しての気持ちの現れだと理解しました。それはメーラト現地に行って、目で見て、手で触れて、耳で聞いて、鼻で嗅いで、初めて理解できたものでした。それほどメーラトの状況は他と比べて酷いものであったと言えます。
デリー現地視察での判断
2000人の子どもたちが住むシャディプールのスラムにおいて現在600名以上の子どもたちをグジャラティスクールで教え、13年間にわたり子どもたちに関わってきたネルー校長と奥様のジョセフィン先生の果たしてきた役割は大きいと再認識しました。文具代が払えないために公立学校へ行けない子どもたちに、マナーを含めた基礎教育と給食を無償で提供し、全てのスラムの子どもたちが初等教育を受けられるように活動してこられました。学校に行かせることが理解できなかった親の説得や、公立学校へ行くために必要なIDの整備、そして過去82名の生徒を私立学校にも送り出してきました。
でも問題は、今まで経営資金のほぼ全てをベルギーの支援に頼ってきたことだと言えます。前回春に訪問した時点まではスラム内にもう一つの学校(リトルキングダムスクール)も運営していましたが、今回のベルギー支援打ち切りにより既に閉鎖されていました。そして驚いたのは、スラムからデリー大学に通うある生徒が平日フルタイムで働きながら土日に大学で学んでいるという事実でした。過去何千人という子どもたちを教えてきた中でも恐らくトップクラスの成績の青年です。将来が非常に有望ですが、果たしてその環境で十分に学べるのでしょうか。疑問が残りました。また、グジャラティスクールの子どもたちは設置された4台のパソコンで器用に絵を描いて見せてくれる場面がありました。でもインターネットが繋がっていない環境で、ただパソコンに慣れ親しむだけという使い方に過ぎないのす。このパソコンが外の世界に繋がったら子どもたちの世界はどれだけ広がるだろうと感じました。
公立学校と私立学校見学での判断
インドでは公立学校は授業料・教科書・制服は無料です。IDがあり希望すれば誰でも通うことができます。ノートや筆記用具だけが自己負担となります。公立学校は人口の多さより女子は午前・男子は午後という形態をとっており、学校で十分に学ぶ時間はとれませんが、たくさんの宿題が出されます。子どもの頑張り次第で大学まで進学する学力をつけることも十分に可能です。事実大学へ進学する生徒もたくさんいますし、デリーで最も学力の高い学校は私立ではなく公立学校であることも後で知りました。見学した公立学校の先生たちはとても優秀だとも感じました。新しいモディ政権の政策により、公立学校での教育がこれから拡充されていく流れにあることも大事な要素です。
私立学校はそれなりの授業料がかかりますが、午前午後とも授業を受けることが可能です。比較的裕福な家庭の子どもたちが通うこともあり、ほぼ100%が大学へ進学します。見学した私立学校では、勉強だけでなくマナーや道徳教育にも力を入れており、学校ごとに特色があるようです。また、スラム出身だからと言って他の子どもたちから差別を受けたりいじめを受けることは全くないそうです。この点については多少の不安があったので安心できました。もともとがインド社会は民族・宗教・言語・カーストの多様性社会であるため、出自を問わず実力があれば評価されるという土壌が整いつつあるようです。また、公立はヒンディー語での授業、私立は英語での授業という違いがあります。語学については英語を習得することが就職にも有利であることは間違いないですが、英語が飛び交うインドにおいては日本での科目授業のそれほどは問題にならないとも言えます。シャディプールのスラムからは費用的な理由から公立学校に通うことになりますが、公立の午前午後のみという授業形態から、グジャラティスクールのような補完的な役割をするアフタースクールが必要だということが理解できました。
もともとの学校建設までの経緯
年に二回グジャラティスクールの子どもたちを訪ね、授業をプレゼントして絆を深めてきた中で、この子どもたちのためになる支援をしたいと考えたのがスタートでした。現在の小さな小さな二階建ての校舎を増築してもっと多くの子どもたちが学べる環境を作りたいという提案に、ネルー校長は別のメーラトでの学校建設を薦めました。理由は、シャディプールは政府が既に土地の売却を済ませている為いつ立ち退きになるか分からないということ、またグジャラティスクールよりメーラトの方が支援を必要としているということ(この時点ではベルギーの支援は安定して見えました)、でした。レインボーチルドレンとしては相手が望まない支援でなく、広くインドのスラムという問題に対して学校建設という解決方法を選択し、メーラトの学校建設プロジェクトが始まりました。
総合的な判断
今回現地を視察して導かれた結論は、メーラトにおける新たな学校建設は必要ないとの判断です。デリーのグジャラート校の存続危機により、スラムプロジェクトの支援先をデリーのグジャラティスクールへ変更し、継続的な支援をしていくという団体方針の決定に至りました。