Be The Change Project 2018感想(しらたん)


 

立命館大学国際関係学部 白井 莉奈子

日本に帰国して7日間。動けない、寝られない、食べられないという三重苦に悶えた日々が終わり、ようやくインド渡航を振り返ることができる状態まで回復しました。


インドと言えばデリー。そう、デリー。私の体調不良の元凶となったあのレストランがあるところ。ディナーを食べながら見下ろした景色は奇妙だった。店から漏れる白い光を頼りに車が横行し、野犬が走りまわり、それを縫うようにありとあらゆる布を身にまとった人間が地を埋める。そしてクラクションがBGMと化して、澄んでいるとは到底言えない大気に溶け込み、夜の空に吸い上げられてゆく。私はふと気になって夜空を見上げてみる。やはりこのまちでは満点の星空を間違っても望んではならないのだと再認識させられ、意識をもう一度下に戻す。さっきそこにいた人なんてもうどこかに行ってしまっていた。このまちは動くのだ。動き続けている。今見ているこの景色だって一秒後には様相を変えて、もう二度と見ることはできなくなる。それなら一瞬でも多く、一秒でも長くこの光景を目に映したい思った。誰もまさか自分が見られているなんて気づいていないんだからいいでしょ?と自分自身に言い聞かせ、何か見てはならないものを見たかのような罪悪感を打ち消す。それが私のインド最後の晩の過ごし方だった。そしてこの情景はこれから私を無意識下のうちに蝕んでゆくだろう。どんどん、どんどん。なぜか直感でそう感じた。


盛大な拍手が会場いっぱいに鳴り響いた。目の前では獅子が舞いを繰りひろげている。4日前、私はダラムサラにいた。チベット亡命社会の中心地である。この日は、法王さまの科学会議に合わせたチベット文化にまつわる舞台があった。不覚にも私は芸術に感動してしまった。瞬間、祖国を離れたチベット人奨学生の顔が頭をよぎり、東方医療の解説の女性の声が耳を貫き、長時間の夜行バスを降りた後のサラッとした空気が頬を掠めた。するとなぜかそれまで“あたりまえ”に捉えていたことがとても綺麗なことに思えた。社会を突き動かしているものは他でもなく人間の感情だということ。そしてその感情のはけ口の総体が今の世の中なのだということ。政治も経済も、宗教も、建築も医学も、人間の欲望や情動、理性によって醸成される。人間の感情によって創られ、人間の感情によって破壊される。そうして創造されたものはどれだけ醜い感情で塗り固められていたとしても、感情に忠実だと言う点では何よりも美しい、そんな気がしてならなかった。

 

いま、重なってふたつの記憶が蘇る。

もしかするとデリーで見たあの混沌とした世界は、暗に人間の美しさを示していたのかもしれない。

 

 

私は、
いかに美しく生きられるだろうか。