ネパールプロジェクトvol.1 始まり


 

東日本大震災のあと、まだあちらこちらに爪痕の残る街を窓の外に見ながら、
宮城県気仙沼市にある仮設地区をいくつか廻った。

気仙沼市にはわたしの友人の実家がある。
震災後、職場の廊下を電話をかけながら泣いている姿を何度も見た。メディアでは決して放送されないような津波発生時の生々しい話も聞いた。
わたしたちの前では、気丈に振る舞っていたけれど、ポツリと『爺さん婆さん多い街だから、気にかけてあげてほしいのよ。』と涙ぐみながら漏らしていた。
そのとき、『いつか遊びにおいで。』とよく言ってくれていた気仙沼の街に行こうと決めた。

わたしが参加させていただいた団体の目的は、小規模、かつ高齢者さんの多く住む仮設地区を廻ることだった。
都市部にある大規模の避難所では、食料や生活物資の支援も比較的速く、イベントが定期的に催されたり、メディアにも届けられやすいので、当然沢山の人々の目に留まる機会が多かった。
対して小規模な村落、山間部などの地域はライフラインの復旧に時間を要したり、支援の手も届きにくく、都市部との格差が生まれるということも起きていた。

それは、既に都市部では新たな家が建ち始めたり、仮設地区でも笑顔が見られるようになってきた頃にも、まだその遅れは続いていた。
元々高齢者だけで住む家庭が多い街、配偶者を失ってひとりきりになった高齢者の方もいたり、親族と離れて暮らしている方々の中には、希死念慮(なんとなく死にたいという感覚にとらわれること)を持つ方もいたり、誰ともコミュニケーションがとれず仮設所内で孤独死するケースもあった。
無論様々な事情があるにせよ、都市部とのそういった支援格差は、そこに住む人たちにとっては、全てを失ったという絶望感に加え『見捨てられてしまったのではないか』という焦燥感や、無力感に繋がるひとつの要因だった。
だが、そういったことは、明るく希望が持てるニュースにかき消されてしまい、広く一般に等しく届けられることはあまりなかった。

この地域は、ワカメ漁がさかんな地域。
船や作業場が燃えてしまったり、倒壊し津波で流された方々も沢山いた。
仕事を失い、それでも少しずつ自分たちでワカメをとってきて仮設所で作業を再開していた。
そんな貴重な春採のワカメを『日本一のワカメだからね!』と誇らしげに言って、お土産に袋いっぱいもたせてくれた。
地場産業の復興は、生業としている方々の生きる活力にもなるんだな、と、その表情を見て思った。
その後、松島の牡蠣養殖所や殻剥きの作業所、船など仕事を津波で失った方々の助成金申請に対し、そこに住む高齢の方にとって難しい資料作成のお手伝いをさせていただいた。これが自分自身ではできない高齢の方がたくさんいらした。
助成金申請ができるのとできないのではその後の生活に大きな差ができる。

長い目で見て、もう一度自分の力で立って歩いていけるように、わたしたちにはそのきっかけづくりのサポートしかできない。
でも、人は『希望』を失ってしまうと、今この瞬間さえも生きづらくなることを、出逢った高齢者の方々から気付かされた。

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震災6日目のサンドゥプリングチベット難民キャンプ

今、この時の経験を思い出しながら、ネパールで被災した方々のことをずっと考えていた。
わたしが辿ってきた道というのは、その瞬間瞬間の連続なのだけれど、
その中で、インド人、ネパール人、チベット人の方々とのご縁をいただくことが多くなった。
ほとんど知識もなかった『難民』という状態をより身近に知り、それがわたしの想像を遥かに絶することも知った。

けれど、今の感覚は、東日本大震災で友人が『気にかけてあげてほしいのよ』と、少し控えめにふるさとを想って漏らしたあの一言を聞いたときと同じ感覚なのだ。

お金も、物理的な支援も、もちろん必要だ。
けれど、『ちゃんと見ているよ』というハートに寄り添う支援も、同じくらい必要だと感じている。

そして、
目にする情報が真実の全てではないこと。
ときには、まったく正反対の現実も見えないどこかで起きていたり、見過ごされてしまっている現実もあるということ。
わたしたちはそれを震災を通して思い知ってきた。

わたしたち、レインボーチルドレンも、そんな支援の届きにくいところのひとつとして、
ご縁をいただいているチベット難民の方々を支援させていただくことになった。
『格差』によって希望の光が途絶えてしまわないように。
『ちゃんと見ているよ』というこころが、ひとつでも多くの希望の光を灯せるように。
精一杯わたしたちでできることをさせていただきたいと思う。

 

今朝この文章を書き終えた後、
インドのビザを無事受領して帰る電車の中だ。
山手線の満員電車の中、周りをぼんやり見渡すと、どこかでまだ来ない支援を待ちわびて祈っている人々がたくさんいることがすこし信じられない。
ふと、車内モニターを見ると、フィギュアスケートの浅田真央選手が東北地方を訪れている映像。
牡蠣の養殖場で、プリプリの牡蠣を笑顔で頬張る真央ちゃんに、
お婆さんが満面の笑顔で『目指すは牡蠣の金メダル!』と言っている。
カトマンズのチベット難民キャンプでは手織りのカーペット工場があり、手先が器用で商売上手なチベットの人々はそれで生計を立てている。今回の震災で、恐らくその工場もダメージを受けていると思う。また流通がストップしている間は彼らもまた生計を立てていくのが困難だろう。
牡蠣の養殖を再開した東北の方々のように、カーペット工場が再始動したときの彼らの笑顔をわたしは今、イメージしている。

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(文:東京支部長 / 三村優子)

vol.2へ続く

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★★チベット難民キャンプ緊急支援★★

レインボーチルドレンでは、国際的な支援が届きづらいチベット難民キャンプの支援のため、緊急募金を受け付けています。ネパールに世界中からの支援が集まっても、難民という立場や住民IDがないことが救済の優先順位を低くさせ、復旧までの道のりが遠いことが予想されます。直接支援には皆さまの協力が必要です。

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