天竺紀行 外伝

 

愛(ありがとう)に至る道

第一部 守 僕等は地獄の風の中

 

還るハズなき手紙の文字に
人の絆の 愚かき儚さを詠む

 

何時、何処で、誰とめぐり逢うのかを、オレ達は何も知らない
そして、哀しい出逢いがあることを、オレ達は知らない
同時に、逢うべき人に出逢えた “しあわせ”も、知らない
そんな出逢いや別れに、一喜一憂する哀しさや喜びを…きっと誰も、知らない

だからこそ…今この一瞬、この瞬間の…
過去も未来も現在も…人に伝わるかどうかも…自分の気持ちさえ…
もうどうでもいい…そう想える程の…この“しあわせ”を…誰も知るハズがないのだ

 

彼女と出逢った日のことを、今では詳しく想い出すことができない…それほどまでに、誰も知らない出逢いだったのだ…ただ、あれは想い出せば中学三年の頃だった…肌にジッとくる夏の涼しい風が吹き始めた季節…高い空に反射する太陽の光に影となった教室に、突然と彼女がやってきた。

 

 

「杉山玲奈と云います。よろしくお願いします」
ザワザワとなる教室に、ポツリとたった彼女…転校生だった彼女は、夏服の白いシャツとそこから伸びる白い肌が、まぶしそうに光にふれていた。そんな彼女の風になびくショートカットに、オレは見とれるようにボーっとしていたのだろう…まるで線の入ったセピアカラーの映画を観るように、八ミリ映写機のカラカラという音を聴くように、今ではもうあの日のことを想い出すことができないのだ。

 

 

ただ、彼女は、オレの隣の席に座ると…「よろしく」というようなことを云っていたように想う…それを聞いてオレは、ペコリと会釈をしたのだろう。すると彼女は、まるで想い出すような笑顔を見せて
「あたしレイナ、あなたは?」というような事を云っていた。
「レイ、無限 零だ」そうオレが云うと、彼女は…今度は嬉しそうにニコッと咲って
「あは、じゃあレイくんレイちゃんだね。よかったらそう呼んで」
彼女がオレのことを「レイくん」と呼び、自分のことを「レイちゃん」と呼んだあの日、きっとオレはもう、彼女に…レイちゃんに、恋をしていたのかもしれない。

 


「レイく~ん」
そんな彼女の声は、耳から神経へ、脳裏へ、心へと伝わるようによく憶えている。いつでもやわらかな高い声をしていた、息をふくんだような優しい声だ。喋ることをあまりしないおとなしい性格に反して、決して暗くない、むしろ明るい性格の彼女は、オレとはよく過ごしていたように記憶している。それは転校してから割とすぐの話だったように想う。特に深い意味はなく、ただ、「隣に来た転校生」ということで、学校を案内したり、授業の進行とか、先生のクセとか…そんな話から始まったと想う。

 

 

 

普通に考えれば転校生の方が質問責めに遭うのを誰もが想像しがちだろうが、オレの場合は持前の無愛想さやニヒルな性格からか、最低限の説明バカリで終わるハズだったのだが…


「へ~レイくん絵上手だね」

 

彼女からだった…きっと最初はそういったオレへの興味からだったように想う。いつのまにかオレ達はいい友達でいたのだろう。オレもそんな彼女と一緒に、いつの間にか色々な話をしていたように想う。彼女はというと、自分の話はそんなにしなかった。ただ…オレの話はジッと聴いていた。そんな彼女の瞳は、とてもキラキラとしていたのを憶えている。綺麗な瞳でいつでもオレを見つめて、彼女は終始そんなオレの話を聴いていた。
それから放課後の夕暮れ刻…オレと彼女は還り途も大抵一緒だった。深い事は考えていなかった。ただ…単純に、彼女と、できるだけ一緒に過ごしたかったのだ…それほど彼女と過ごす時間は、オレにとって、楽しく、居心地よく、しあわせな時間だった。
「は~あれがお前ん家か~」
彼女は教会の娘だった。白く映える教会の十字架がよく輝いていた。そんな大きな教会の隣にポツンと建った小さな家が、彼女の家だった。

 

 

「おかえりお姉ちゃん!!」
教会から出てくるには不似合いの元気な声をした彼女は、レイナの二つ年下の妹で、名前を確か「アヤ」と言った気がする。姉妹でも教会の良く似合うレイナに反して妹のこの強気な態度…
「あららお姉ちゃん、ボーイフレンド~」
その場で咄嗟にそんなこと考えていたオレを見透かすように、彼女はオレと逢う度にそんな事を云って、オレ達ふたりをよく冷かしていた気がする。
「ちょ、ちょっと、や~ね、そりゃ…あたしは…レイくんが…」
レイナはその度に赤い顔をしてオレをチラッと見ていた気がする…中学生の頃のオレには、そんな桃色の表情のなす意味の重さ、そしてこんな一日が明日もあたりまえであるとは限らない…そんな切なさを知るにも覚悟を決めるにも、あまりに若すぎたのだろう…オレはまるでそんな日々をあたりまえかのように過ごしてしまった…いや、あたりまえであってほしかったのかもしれない。反対に云えば、それだけしあわせだったのかもしれない…
レイナは神父の父親が独りと、母親が独り、二つ年下の妹が独りの教会の娘だ…そして、そんな教会の裏庭には、とても綺麗な庭園があった…お花畑だ…オレは、花とは無縁のような荒々しく殺伐とした性格からか、花の名前などは何一つ知らなかった…だが、そんなオレにも解ることがあった…

 

 

「あはは、レイく~ん」
それは…ここの花畑はとても綺麗だということと…そして…レイナにはここの花畑が、とてもよく似合っていた…ということだ。
好きな食べ物はいちごで、犬が好きで、身長はオレよりやや小さく、ワンピースがよく似合う女の子だった。ショートカットと一緒に揺れる白いワンピースと、青空がよく似合っていた。ここの一面に咲く花畑は、とてもよく似合っていた。
ギターだけが友達だったオレは、そんな友人を彼女に紹介したいと…家からよくギターを片手に持ってきては、彼女に色々な曲を聴かせてあげた…聖歌も弾いたと想うが、恋の歌もよく弾いていたような気がする…花畑に座った彼女は、花畑でギターを奏でるオレのメロディーを、瞳をとじてジッと聴いていた…
「レイちゃんどんな曲が好きなの?」
「レイくんの好きな曲が好き~」
「え!?…じゃ、じゃあオレが好きな曲だったらどれが好きかな~」
「う~ん、どれかな~」
「何か歌ってあげたいんだ。何がいい?」

 

 

そんな事を云いながら、オレも何かイイ曲はないかと探していたように想う…そして…
「あ…これとかどうかな?」
オレは一つの曲を歌ってみた…物語やコンセプトは大したモノではないが…どうしても歌ってあげたかったフレーズがあったからだ…それは、その瞬間のオレの、レイナへの気持ちをまさに表現したようなフレーズだった…

 

 

“誰もが産まれた刻に祝福されただろう…それを想い出して…”
“けれどもしも想い出せないなら、オレはいつでも君に云うだろう”
“産まれてくれてありがとう”
その日は日曜日で、朝からいたからだろうか…声がもうかすれてしまって、オレは満足に歌うことはできなかった気がする。だが…それでも気持ちを籠めたいと想い、必死にもがくたび、声が裏返ってしまったりで、まるで恥ずかしかったような気がする…だが…

 

 

「…レイくん…」
歌い終わるのをジッと静かに待っていた彼女は、歌い終わった瞬間に…ボロボロ泣いていた。
「え?」オレはちょっと混乱してしまい、茫然としていると…彼女はそんなオレをよそに、オレにニコリと微笑みかけて話していた。
「あたししあわせ、レイくん、こんな風に想ってくれていたなんて」
「や、いや…そんな、泣かれるほど感動してもらっちゃっても、何か照れるな…今の、あまり上手くは歌えなかったし…」
「関係ないよ!!すっごいよかった。レイくんギターも上手だけど、歌もとっても上手だね」
オレは十分すぎる程しあわせだったと想う…だけど…それでも…何か物足りなかった…何か…伝えてあげたい言葉がある気がするのだが…それは…あまりに単純すぎて、よく判らなかった…そう、単純であるほどに純粋で、彼女にしか似合わなくて…とても力強い言葉だ…

それは、そろそろ日曜日の終わる夕暮れの頃だったと想う…確か最期に、ベートーベンの「月光のソナタ」の第一楽章を…何となく奏でてしまったような気がする…そんな夕暮れ刻…

 

 

「もう今日が終わるね…」
一瞬寂しそうな顔を見せた彼女は…ニコリと微笑み返すと
「明日もレイくんと一緒に学校に往けるね」
そんな事を云ったように想う…茜色に染まった彼女の髪が、まるで雲の流れ染まるように真っ赤な調べを風に流す刻…彼女の微笑みが茜色に隠れてしまう頃…オレは…
「レイちゃん…」

 

 

そばにあったユリの花をそっとつみあげて…
「その…結婚してくれない?」
誰が聞いても子供染みたバカな話だろう…何も考えずに咄嗟に無意識に囁いたその言葉は、今から思えば、本気だったのか冗談だったのか…あの頃の気持ちを感じる事は、今ではもうできない…ただ…

 

「あ…」
その場のレイナの表情や声や、しぐさの一つ一つさえ…確実に間違いなく記憶しているように…あの頃のときめきだけは、寸分たがいなく想い出す事ができる…
「う…嬉しい…」
レイナはその場で顔を細い手で覆うように包むと、涙声でそんな事をつぶやいて…
「ありがとう…あたし…レイくんのお嫁さんになるね…」
そっと微笑んだ瞳には、綺麗に輝いた涙が浮かんでいた…今から想えば…彼女は微笑みをよく見せてくれた反面、涙もよく見せてくれる女の子だった…そんな彼女に返したオレの表情は…きっと…
きっと素直な気持ちだったのだと想う…あの頃のときめきは…今からでもそう想う…きっと素直な気持ちだったのだ…だから…オレは小さな微笑みを返していた…

 


しかし…彼女が「一緒に還れない」というような事を言い始めたのは、その翌日の頃からだったように記憶している。
「何でだよ…」
オレはまるで焦るような…そんな気持ちの中で、放課後の校庭で叫んでいただろう…
「何でだよ!!オレ、レイナと一緒にいたいよ!!」
教会に来ないでほしい…というような事を言い始めたのも、この頃からだったように記憶している…オレはその度に叫びだしたいような気持を、喉元に抑えていたのだが…
「ご………ごめんなさい……」
「!?」
その度に…彼女は……しばらく黙り込むと、そんな事を云って、泣きはじめていた…
「ごめんなさい……ごめんなさい………」
だから…
「…泣くなよ……」
オレはそんな事を云って、彼女の頭を撫でてみたり、そっと抱きしめてみたり…そんな事をして、レイナにいつも云っていた…
「学校では逢えるんだし…今まで通りだし…変わんねぇよな」
だから、オレは、レイナに「逢いたい」とか「一緒にいたい」とか…そんな事を云わないように心がけようと想っていた…きっとそれは、レイナを苦しめてしまうように感じていたからだ…すると…
「ねぇ…レイくん…」
レイナは胸元から、銀色の光るペンダントのようなモノをとりだした。すると…それは十字架だった。
「お願い…一緒にお祈りして…」
「お祈り…」
「“レイくんとあたしが早く結婚できますように”って…」
「…」

 

 

十字架を校舎裏の木の幹に置くと、オレ達ふたりはひざまずく様に足を曲げて手を逢わせては祈りを捧げていた…

 

 

ふと、オレはとじた瞳をひらいて、右側にいるレイナを見てみると…
「…」
レイナは瞳に力をいれるようにも懸命に祈っていた。

 

 

そんな彼女の綺麗な横顔を見ていたオレは…
「えい」
彼女の頬を人差し指でつついてみた。
「ちょ、ちょっとレイくん」
「ハハハハハハ、顔赤くなってやんの~」
恥ずかしそうに赤くなったレイナを見て咲ってしまったオレを、レイナも咲っていた。
「このほうがオレらの祈りっぽいじゃん…オレ、レイナの咲った顔が好きなんだ」
「…そうだね…ありがとう…」

 

 

顔を赤らめたレイナは、はにかむようにニコリと微笑み、オレの顔を見ていた気がする…そんな彼女が、とてもかわいらしくて、綺麗で、美しくて…

その日見た夢をよく憶えている…片手に握られたケータイの画面に向かって、オレはメールを打っていた…
“レイナに逢いたい”
心理学と夢診断によると…夢の中でメールを打っている刻、その打った内容がその人の本音である…という…
レイナに「逢いたい」とか「一緒にいたい」とか…そんな事を云わないように心がけていた…きっとそれは、レイナを苦しめてしまうように感じていたから…だがそれと裏腹に…そう想えば想うほどに…オレの心はますます苦しくなっていたようにも想う…
だが…
それから数ヶ月ほど経った頃だっただろう…
ちょっと顔を斜めに向いて、髪が眼元を隠すように顔半分を隠して、黒板の前に立ったレイナは、何も言えなかった…だから、確か先生が代わりに話してしまったような気がする…親の仕事の都合がどうのと聞いた気がする…だが…その頃のオレは放心状態で、正直何も憶えていない…何も…

「突然ですが、レイナの転校が決まりました」

躰が妙にダルかったような…重しをのせられたような…そんな心地だった…重い足どりで、還り途を一人で歩いていた記憶がある。カラスが啼いていた記憶や、細々とした犬がこちらを覗いていた記憶もある…
それから…オレは風邪をひいてしまったようだ…部屋に二日ほど寝込んで、学校を休んでしまっていた…
それから…たしか二日後の事だったように想う…
ピンポーン!!「!?」
突然のピンポンに、オレは咄嗟に躰をのけだし、玄関に走り出した…パッと開けてみると…
「……お前…たしか…」
アヤだった…その場の気持ちは、もう想い出せない…ただ、そんな気持ちの余韻にひたる間さえなく…
「!?」
小学生のアヤは、オレの襟もとを掴んで叫んでいた。
「お前!!お姉ちゃんの気持ちを解ってんのか!!!!」
そんな罵声のような言葉がイントロだったように想う…
レイナは…あの日…オレからユリの花をもらったあの日…最初に話したのは、妹のアヤだったのだという…
「ステキじゃん!!!!!!!!!!」
アヤはそう云って、眼を輝かすように云っていたと聞く。レイナは、半分緊張して話したのだが、アヤのそんな反応を見て、ほっとしたように喜んでいた。だが…

夕食の頃…家族にその話をした瞬間…まるで凍てつくような空間が家を包み…特に父親は罵声を挙げていたようだ…まっこうからレイナを否定するように大声で叫んでいた…アヤはあんなにも怒った父親の姿を見たことがない…そう話すほどすさまじいモノだったのだろう…だが…
レイナはそれでも逆らいつづけていた…凍てつく空間を逆らいつづけていた…オレにはそんな光景を想像することができない…あの華奢で小柄で…折れてしまいそうな躰…そして何より…オレの知っているレイナは…おとなしくてやさしくて…とても闘えるような女性でなかったから…
「お姉ちゃんは中学やめるとまで云ったのよ!!!!」
「!?」
もともと将来の夢とか、進学先とか…そんなモノが曖昧で、何もなかったからだという…どうせ将来の夢とかも、曖昧で何もなかったのだから…

“レイくんのお嫁さんが将来の夢…それでいいじゃん”

「…」
驚いたオレは、その場に立ち尽くすバカリだった…オレは…何も云えないまま、その場に立ち尽くすバカリだ…そんなオレに、アヤは苛立ちを爆発させていたようだ…
「テメェ!!学校をやめるとか、本気じゃなかったら云えないでしょ!!!!お姉ちゃんは本気なのよ!!!!!!!!!」
「あ…その…」
「あんたは堂々としてりゃいいのよ!!!!!!!!!!!!!」
その場にパッと投げ出されたオレに…アヤはぼそぼそっと話していた…
「お姉ちゃん…まだ家に還らないんだ…」
「!?」
「たぶん、海沿いの三角公園…」
「…」
「往ってやんなよ…」
「…」
「こんな刻…きっと、お姉ちゃん…そばにいてほしいのは、家族とかじゃなくて…あんただから…」
ハァハァハァ…何とも云えない影を背負ったアヤの表情を見て、オレは咄嗟に躰をのけだし、アスファルトを走り出した…オレは何もかもを忘れるように走っていた…それはもう夕暮れの頃だった…レイナの処へと、裸足で駆け出した…
「!?」

 

 

ブランコの淋しいキー…コー…キー…コー…という音に…レイナが一人乗っていた…
「…レイちゃん…」
「!?」オレに気づいたレイナは、ブランコの淋しい音を止めると…
「レイくん…」
そのまま立ち上がって…オレの処まで歩み寄ると…
「…ウ…ウウ…」
あぁぁぁぁぁ………………
「!?」
オレの胸の中で、泣いていた…
「…レイナ…」
それは…今までで一番哀しそうな涙で…オレは、その場で胸を裂かれるような気持ちになっていた…

「もう…心が折れそうだったから…逢いに来てくれて嬉しい…」
「…」
そう云ってオレを覗いてきたレイナの顔を見て…オレは…哀しさより怒りの方が湧きあがってきて…
「…おい…親父に会わせろ。一言云いたいことがある」
娘にこんな想いをさせて何が父親だ…そんな想いで胸がいっぱいになった。だが…そんなオレに抱きつくようにレイナは…
「あたしを信じて…あたしを信じて…」
その一点張りだった…何を云っても、「信じて」の一点張りだ…
「…」

 

 

夕陽に映された、レイナの必死な表情を見て…オレは、胸にいっぱいになったこの気持ちを…どう表現すればいいのだろう…ただ、レイナの云う通りなのかもしれない…ただ信じることしかできないのかもしれない…それぐらいしかできないのかもしれない…きっと…
それから数週間後の頃だった…

 

 

カレンダーの暦が一日一日破れていく度、柱時計のフリコが一秒一秒刻む度、レイナは嘘をつくようになっていった。レイナの見せる笑顔は、段々と嘘の笑顔に移ろっていくのが解る…彼女の笑顔の裏に、涙を越えた溜息のようなモノを感じた。カレンダーの暦が一日一日破れていく度、柱時計のフリコが一秒一秒刻む度…オレはたまらない気持ちになっていった。そして…

 

 

「レイナ!!逃げよう!!!!」
「!?レイくん…」
「オレが地の果まででも連れて往ってやる」
今で言う処の駆け落ち…というヤツだ…オレはそれをレイナに云った。
そして計画を…約束を話していた。今日の夜11:00に、三角公園で待ち合わせ…それが、オレ達の…明日への切符だ…
「…」
それを聞いたレイナは、ふと間を空けると…

 

 

「うん、解った」
と、ニコリと頷いていた…
そして…放課後の校庭でお互いに手を振り、玄関で二つ道を歩いた…オレは何も見ないで走っていたと思う…移ろう景色も流れる音も、何もかもを忘れて駆けていた。そして…

 

 

「…」
夜の11:00だ…荷物を持ったオレは、三角公園のブランコの前で、待っていた…待ちながら、船への密航や着いた先での事…そして、オレ達の楽園のことを、考えていた…

 

 

エピローグⅠ 月光のソナタ

夜の明けて 眼が醒める頃 眼が醒めても オレの心が晴れる事はない
浮かぶ言葉は「殺してくれ」の一言だけ それを延々と呟きつづけるから

陽の暮れて 眼を閉じる頃 夢についても 深い眠りにつく事はない
浮かぶ言葉は「消してくれ」の一言だけ それを延々と呟きつづけるから

堕ちる貌は歪んだ貌? 怒りの貌? 憎しみの貌? それとも哀しみの貌?
浮かぶ貌は揺れる貌? 切ない貌? 虚しい貌? それとも愛した貌?

 

夜の明けて 眼が醒める頃 眼が醒めても そこに君はいない
想う言葉は「逢いたい」の一言だけ それを延々と祈りつづける

陽の暮れて 眼を閉じる頃 夢についても 君に逢える事はない
想う言葉は「逢わせて」の一言だけ それを延々と祈りつづける

想ひ出は哀しい貌? 優しさもトラウマに掻き消されていく…忘れたの?
想ひ出は愛した貌? しあわせを護りたいほどに忘れたくて…憶えてる?

どうして? 瞳をひらいても、同じ部屋にいるのだろう?
君ひとりも 想い出せない一日がつづいていく
どうして? 瞳をとじても 同じ部屋にいるのだろう?
夢ひとつも 想い出せない一日がつづいていく

“ここにいるよ”その一言を、何千年も昔から待ちつづけて、
何千年も昔からこうやって哀しかったり喜んだり憎んだり愛したりがつづいている
まるでオレ達ふたりは 世界と調和に引き裂かれた恋人同志のようだね

 

夜の明けて 眼が醒める頃 眼が醒めても また一日がつづいていく
浮かぶ言葉を想い出せない それを延々に繰り返すから つづいていく

陽の暮れて 眼を閉じる頃 夢についても 深い眠りにつく事はない
想う言葉を想い出せない それを延々に繰り返すから つづいていく

君の姿を忘れただろうかそれとも憶えているだろうか
君の声だけでも聴こえたらいいのに…

どうして? 瞳をひらいても 同じ部屋にいるのだろう?
誰ひとりも 想い出せない一日がつづいていく
どうして? 瞳をとじても 同じ部屋にいるのだろう?
何ひとつも 想い出せない一日がつづいていく

“ここにいるよ”その一言を、何千年も昔から探しつづけて
何千年も昔からこうやって虚しかったり幸せだったり憎んだり愛したりがつづいている
まるでオレ達ふたりは 宇宙と調和に引き裂かれた恋人同志のようだね

君を想ひ出に預け旅に出ていく きっと簡単 だから泣くよ………

 

つづく

外道鬼畜魔王 無限 零(殺戮豚)

第二部 破 へ