「復興への願い、伝統のはたに織り込んで」


 

7月8日、私はカトマンドゥ市内のチベット難民居住区にある機織り工場、Jawarakehru Handcraft Center (JHC)を訪れました。チベット難民の女性たちが、チベタンラグと呼ばれる伝統的なラグを生産している現場です。1年前、レインボーチルドレンを通して10名の日本人がチベタンラグを注文してくれ(日本より合計20枚)、1年がかりで制作されたラグが、先日彼らの手元に届きました。この日はそれぞれの購入者が伝えてくれた使用の様子や喜びの声を、生産者であるチベットの女性たちに届けに行ったのです。

JHC 門
JHC 門
JHC 門看板
JHC 門看板

 

工場に入った時、通路を挟んで2列に並べられた織り機の前で、20名ほどの女性たちが機織り作業をしていました。人の背よりも高い機織り機、床に転がった色とりどりの糸玉、糸を織り込む規則正しい音、職人の仕事場の匂い…その場にある全てのものが特別な雰囲気を醸し出していました。それでいて、不思議と心が落ち着いたのを覚えています。

工場内-min 工場内⑤-min 工場内④-min 工場内③-min 工場内②-min

購入者からのメッセージをまとめたスライドを見せる時、女性たちは作業を中断して私たちの周りに集まってくれました。案内をしてくれたレインボーチルドレンの奨学生ペマと、工場のマネージャーがチベット語で説明してくれます。購入者の自宅に敷かれたチベタンラグの写真を指差したり、メッセージの一言一言に聞き入って笑顔で拍手をしてくれたりする様子を見て、私も温かい気持ちになりました。

ペマによる説明
ペマによる説明

 

  • 説明に使用したスライド(クリックするとポップアップした画面から矢印でスライド閲覧できます)

 

実は、現在女性たちが作業をしている場所は仮設工場です。2015年4月にネパールを襲った大地震は、チベット難民キャンプの産業を支えていた機織り工場に甚大な被害をもたらしました。地震によるダメージで建物は倒壊寸前となり、危険すぎて中に入れない状態になりました。チベット難民を冷遇するネパール政府は、チベット難民キャンプに一切の支援をしていません。海外からネパールに集まった災害寄付金や物資も、チベット難民の元には全く届かないのだそうです。
「自分たちで生活の糧を確保するしかない」と、女性たちは危険を承知で工場に立ち入り、20数台の機織り機を持ち出したといいます。

毛糸(紡績中)②-min 工場内-min 工場内⑤-min 工場内③-min

本来の工場は現在、取り壊し作業が進んでいます。取り壊しにかかる資金は、工場自体の廃材を建設業者に売って捻出している状況で、立て直しにはさらに約6,000万円がかかります。金額が大きいこともあり、資金集めは想像以上に難航しています。いつ本工場を再建できるのか、見通しは全くついていないといいます。

倒壊したメイン工場
倒壊したメイン工場
倒壊したメイン工場 サイドから
倒壊したメイン工場 サイドから
取り壊し中の工場
取り壊し中の工場

 

どの女性もチベット難民であり、子をもつ母であり、チベットの伝統を守り伝える職人です。倒壊寸前の工場から命がけで機織り機を運び出し、仮設工場で懸命に作業する凛とした姿。優しく温かく私たちを迎え入れ、購入者からのメッセージを喜んでくれた明るい笑顔。強さと優しさを併せ持ったチベットのお母さんたちの心と、その心が守り続ける伝統産業に、頭の下がる思いがしました。
JHCは、ネパール政府から一切支援を受けられないチベット難民の生活を支える、チベットの伝統技術を守るという点で、なくてはならないものです。1日も早く工場が再建され、チベットのお母さんたちとその家族に震災前の生活が戻ることを願わずにはいられません。

毛糸(染色前)-min 紡績機械-min